花のころ

花のころ 20句

木蓮を空より剝がす日なりけり
春の鹿柴の編戸が毛束削ぎ
片栗や影のほころび花に帯び
烏の巣身に余る枝ばかりなり
その日一等大きな影を桜といふ
一団のさくら流るる土瀝青
光は青く花に衰へ知らずの夜
夜桜は病気の魚生きてゐても
聞き流すごとく桜の日は過ぎぬ
でも たぶん だけど 花屑 不登校
春の雨頭の痛み手に溢れ
落椿とりどり混ぜて寄せある輪
てのひらを椿は鞍にして進む
さしむかふ吾もなで肩甘茶仏
後にしてけふをきのふの花御堂
チューリップけーたいにたくさんねこさん
葉に花に漉きこむ夕べ山桜
日章旗つつじを朱く朱くして
二輪草匿はれたる蕾あり
むらさきは醒めたるものをえびねかな

いい日が続いた気がした。よく夢を見た。

令和5年度句稿

夜更け 50句

牛梁に木の鳴くこゑや厩出し
日誌あり春めくとのみ末日に
ましますは一茎一華応接間
花を噴く幹や老梅横たはる
ふきのたう雪の奧処に流れあり
登下校春風はどの山からも
外周を走る生徒と春燈と
鳥さまざま耕すあとをついてくる
がやがやと蚕太らす月日かな
雲をふちどる春雷の鳴りがくる
ひと雨をあけて雲浮く芒種かな
水盤のそばにころがる螺子ふたつ
恋人曰く六月われわれ幸運と
出てきて二人同じラクサが夏ですまる
捩花の次なる花をねぢあげぬ
走る子のための小さなサングラス
食思ありわづか許りの涼しさに
東京や夏至も夜更けのバスタオル
裏返る蓮の葉音のあからさま
のうぜんや昼九つの中華そば
夕暮で街がひたひた草いきれ
築城に木の香ありけり秋の蝶
四辻や変化あさがほあを散らばる
蘆揺らし現れスワンボートの首
ぐ、と虫の闇の茄子紺立上る
彼岸花だらけ一粒万倍日
川べりに水を握れば爽かに
瑟瑟と夜露いただく禾の属
榎の実夕日の束を揺らしをり
川を肌と言へば秋の色やはらか
ほどけつつそこより赤み厚走り
馬返しありずらずらと杜鵑草
みぞそばに足投げだして歌ひをり
日没の日ましに深し茨の実
冬がまたくる記念写真一葉に
ここにもある大陸飯店初しぐれ
物失せて新しく咲く冬のばら
山茶花や扇子より火の出る噺
いつまでも寒燈とある落し物
多摩時雨根菜類どこどこ煮られ
大綿の羽の立つなり飛ばさるる
夕風や雪になりつつある天に
たふれたる枯蘆のうへこゑとほる
口にして肉まん少し年の暮
砂漠の寒星同接二百寝なければ
電燈の笠欠けてゐる雪ふる夜
松過のおつけに満す漆椀
寒木瓜にしたたか肉の美しさ
立止る靴下の赤スノードロップ
春を待つそのことにのみ色を用ゐ

体を柔軟にしていく一年でした。