その冬

その冬 50句

冬がまたくる記念写真一葉に
丘と芝共色に枯れ遊園地
起臥や木の葉吸ひこむ川の波
ひと粒の石英かつぐ霜柱
けふまたも氷柱を払ふたなごころ
電燈の笠欠けてゐる雪ふる夜
おはやうの冬のトーストチーズ載せ
南天の実をや暦の上におく
凍るとは見えねど裏窓の然あり
お別れとして綿虫は思ひ出され
去りぎはに冬の森あり正午も過ぎ
吾がつくる靴の尸冬の雨
あまたたび胸乳まさぐる寒さあり
たふれたる枯蘆のうへこゑとほる
をしどりのをのふれあふをいくたびか
雪折の庭木ともども私あり
釣られ魚総身に雪を覚えたり
大寒の月の爪先見え初めぬ
あれにあるものは兎のあしあとか
横たはる鴨の青頸ふと紫
忙殺の二月は梅を零すなり
車中二時間探梅のこころ持つ
砂漠の寒星同接二百寝なければ
占ひで魚座いい日な雪だるま
鳥のうちの烏と育ち春隣
春を待つそのことにのみ色を用ゐ
ふきのたう雪の奥処に流れあり
むきだしの枝が花待つ桜かな
蝶這はす眠るともなく眠る指に
登下校春風はどの山からも
鳥さまざま耕すあとをついてくる
釜を待てる若布の籠の色ばらばら
がやがやと蚕太らす月日かな
雲をふちどる春雷の鳴りがくる
天狗岩あり石菖のかたまりをり
水芭蕉水は五彩を抛げかへし
跳ぬる鮎からだに緑流しけり
造園の二人昼寝す顔に帽
つるばらのつるかたくなや花一重
歳歳に河骨さぐる野ざらしか
夕菅のそこよりほかは暮れにけり
埋れ木のふところ廻る尺岩魚
白日へあきつの道の重なりをり
鰯雲たんこぶひとつ脛にでき
かへりみるつかのま蓼の花しなふ
足どりに藤袴寄る夕かな
川を肌と言へば秋の色やはらか
たはやすく白露奪ふ指のはら
霧うごく何ものもみな霧となり
白桃の毛肌隈なく匂ひけり

ずいぶん長い間俳句を書かなかった。なのでそのことを書いた。今は少し眠ることができるようになった。長い一日だった気がする。